第3回大学短歌バトル2017
3月4日に行われた「【平成によみがえる歌合】第3回大学短歌バトル2017――学生短歌会対抗 超歌合」
放送で流れていた全歌/全判詞をまとめました。
確認はもちろんしたのですが、手作業なのでミスなどありましたらすみません。
2018年春に役立つことを祈って。
第一回戦 第一試合 大阪大学短歌会VS九州大学短歌会
先鋒戦「ししゃも」
焼きししゃも食む警備員 本日の夜間外来は銀の静けさ(大阪大学短歌会/佐原キオ)
腹裂けて子持ちししゃもの子は溢れ動機未満の瞬間がくる(九州大学短歌会/松本里佳子)
中堅戦「名」
「前職は手品師でして」渡すとき名刺を一度裏返す癖(大阪大学短歌会/あかみ)
本当のことはいつも分からないきみの名前に雨とあること(九州大学短歌会/菊竹胡乃美)
大将戦「夢」
淫夢見ぬ夢精の感覚のこしつつ遅れてはじまる校長訓話(大阪大学短歌会/渡邉瑛介)
「おまえらの夢根こそぎ喰ふ!」胸に飼い慣らせない獏をかえしに 森へ(九州大学短歌会/真崎愛)
*ルビ 獏=バク
第一回戦 第二試合 早稲田短歌会VS神戸大学短歌会
先鋒戦「ししゃも」
信じれば叶うと聞いて給食のししゃもをしっぽからかじり続けた(早稲田短歌会/関根一華)
あの川辺で手を繋いだはずだったししゃもが回遊してくる秋に(神戸大学短歌会/むらかれん)
中堅戦「名」
先輩の恋人の名前当てゲーム 正解にたどりつかず三月(早稲田短歌会/大村咲希)
東名阪、と誰かが言えばそれぞれの透明人間包囲されたし(神戸大学短歌会/九条しょーこ)
大将戦「夢」
この朝に死んでいたかもしれないね夢精したのも覚えてないし(早稲田短歌会/谷村行海)
教室の壁に人数分の夢クリオネたちが半紙に眠る(神戸大学短歌会/村上なぎ)
第一回戦 第三試合 外大短歌会VS北海道大学短歌会
先鋒戦「ししゃも」
淫乱の神に夜空へ放たれて恵みのようにししゃも降るなり(外大短歌会/中山かれん)
朝に焼くししゃもの焦げた部分から崩れて今日が始まっていく(北海道大学短歌会/渡邉暉生)
中堅戦「名」
あざやかに花の名前を掠めとり君は世界を原始にかえす(外大短歌会/神谷俊太郎)
ファミレスで君の名前を記入する 君の名前で僕が呼ばれる(北海道大学短歌会/西村優紀)
大将戦「夢」
懐かしい夢からさめる感触は燐寸の消える一瞬に似て(外大短歌会/北島洋)
夏風邪に半びらかれるくちびるのすこしうかつな夢魔だねきみは(北海道大学短歌会/岐阜亮司)
第一回戦 第四試合 岡山大学短歌会VS國學院・二松學舍大學連合
先鋒戦「ししゃも」
崩しても崩してもいのち箸先が死んだシシャモの腹をまさぐる(岡山大学短歌会/山田成海)
全人類の母になりたい欲望を殺して晩のししゃもを運ぶ(國學院・二松學舍大學連合/桜望子)
中堅戦「名」
羽をひとつ与へるやうに卒業のすべての子に配つてゐる名札(岡山大学短歌会/川上まなみ)
ひとりきり菜の花畑に寝転んだ名前にくさかんむりが欲しくて(國學院・二松學舍大學連合/乾遥香)
大将戦「夢」
私の投げる夢のかけらに白鳥がゆっくり集う音のない午後(岡山大学短歌会/森永理恵)
アイドルがセックスしても夢は夢 目覚めたら東京も朝だよ(國學院・二松學舍大學連合/佐藤まどか)
第二回戦 第一試合 大阪大学短歌会VS神戸大学短歌会
先鋒戦「ブーツ」
昨晩の靴用カイロがあたたかいままのブーツで踏みつける柚子(大阪大学短歌会/あかみ)
キリンだったわたしの前世この痣は柄の名残でブーツは蹄(神戸大学短歌会/むらかれん)
中堅戦「羽」
カラス飛ぶとき抜け落ちる羽ペンの軌跡が描く都市の輪郭(大阪大学短歌会/渡邉瑛介)
その愚痴を思う存分聞かされて返事の途切れた手羽先かじる(神戸大学短歌会/九条しょーこ)
大将戦「銭」
わが体暴かれるとき銭湯のロッカーキーは光を湛う(大阪大学短歌会/佐原キオ)
駅前のティッシュ配りの給料が投げ銭制でちょっと心配(神戸大学短歌会/村上なぎ)
先鋒戦「ブーツ」
いつまでもブーツのことを長靴と言う父の背に小さな会釈(北海道大学短歌会/渡邉暉生)
旅先にスノーブーツを購へり夜の間に降る雪のため(岡山大学短歌会/川上まなみ)
中堅戦「羽」
くもらせた眼鏡に一瞬だけ羽根が見えるすべてのものうつくしい(北海道大学短歌会/岐阜亮司)
大企業に行く友人が手羽先に胡椒をかける ずっと上手に(岡山大学短歌会/森永理恵)
大将戦「銭」
小銭入れがうるさい死ねと好きな子に言った三十七度の廊下(北海道大学短歌会/西村優紀)
銭湯のシャワーを浴びる友人の背中に来るべき結婚式(岡山大学短歌会/山田成海)
先鋒戦「日」
まっさらな貸し出しカードを秘めたまま日に焼けていく文学全集(大阪大学短歌会/あかみ)
祖父の死を知るよしもなく庭はあり鳩は何度も日を改める(岡山大学短歌会/森永理恵)
中堅戦「流」
科学者の臓器は貨物室のなか その熱攫ってゆけ乱流よ(大阪大学短歌会/渡邉瑛介)
水面に光はすんと佇んで川は流れを止めないでゐる(岡山大学短歌会/川上まなみ)
大将戦「陸」
延々と忘れられなきオニユリは母の朱硯の陸のよそおい(大阪大学短歌会/佐原キオ)
*ルビ 陸=おか
きみの立つ陸地をふやすための逢瀬 シンクに新たな洗剤を置く(岡山大学短歌会/山田成海)
エキシビション「聖」
先鋒戦
聖五月讃へる歌よ母親に一人分なる丸き膨らみ(岡山大学短歌会/川上まなみ)
聖書の表紙青かったこと 雪の日のブレザー燐寸の匂いしたこと(ゲスト歌人/小島なお)
中堅戦
「ご迷惑おかけします」が点滅しカラーコーンの聖域がある(岡山大学短歌会/森永理恵)
冷蔵庫のドアというドアばらばらに開かれている聖なる夜に(ゲスト歌人/穂村弘)
判詞
佐佐木幸綱:岡山
大将戦
どう考えてもきみは聖人走り書きされたさよならさえ美しい(岡山大学短歌会/山田成海)
雪の夜の聖域ならむチューハイの缶置かれゐる電話ボックス(ゲスト歌人/栗木京子)