シン・ゴジラと震災

シン・ゴジラは、すでにたくさん言われているだろうけれど、やっぱり震災の記憶を喚起する。海から来るものってことも大きい。

最初にゴジラが海からやってきて、ボートとか、そういうものを押し流しながら東京のほうへ向かっていくシーンとか、ほとんど津波だ。災害だ。

人々は、大きな誘導もないまま、適当に、ほうほうのていで、思うように逃げたり、写メを撮ったりしている。そういった、温度差、のようなものもぞっとするほどリアルに描いている。

なんでそんな書き方をしたんだろうと考えたときに、庵野監督だからじゃないかと思う。

震災のとき、ほとんどのCMが自粛された。娯楽は自粛の重みに押しつぶされていった。

そんなとき、エヴァンゲリオンに登場するヤシマ作戦にのっかった節電活動が、Twitterを中心に巻き起こった。

ただ節電を呼び掛けられるのではなく、アニメにのっけることで、前向きに、楽しんでできる。共同の信念を持って立ち向かうことができる。

そういった風潮に希望(もしくは絶望)を持ったのではないだろうか。

真偽はわからないけれど、震災のあのときに、あんな形でおおきくエヴァンゲリオンが、じぶんの作品が力を持ったことに対して、なにか感じるものがあったのではないだろうか。

そのときのうねりのような現象と、震災に対するアンサー、のような映画だと思う。

 

実際の震災と、ゴジラの描かれ方についてちょっとみていこうと思います。

 

◇巨大不明生物からゴジラ

ニュースで巨大不明生物とされていたゴジラは、牧教授の資料の発見により、ゴジラと呼称されることに。

登場人物たちは「こんなときに名称なんてどうでもいいだろ」「名前はついてることに意味があるんだ」みたいな会話をしていた。

それで思い出したんだけど(ソースが見つからなかったのだけど、)震災が起きたとき、その日のうちに震災の名前を決める委員会とか会議とかあったよね。気象庁だったのかなぁ。こんなときになにやってるんだよ、とかニュースを見て思った記憶がある。

わたしのようにそんな風に思っていたひとびとは、このセリフでふっと救われた部分もあると思う。緊急時だから、それに名前をつけて消化する必要があったのだ。

 

◇女性の活躍

カヨコ・アン・パタースン特使にしろ、花森防衛大臣にしろ、尾頭ヒロミさんにしろ、女性の活躍がとても目立つ。この映画を諸外国の人が見たとき、日本の政治に男性社会的なイメージは持たないだろうと思う。女性も臆することなく、上司に意見をし、対等に渡り合う、ということがふつうなのだ、というイメージを与える。

 

ゴジラに対して絶望しない

震災に対してもそうなのだけれど、地震が起きた日から、復興だのがんばれ東北だの、ポジティブに生きることをずっと強いられる。

ゴジラに対しても、対ゴジラ側は絶望して泣いたりしない。ひたすら対応し、対策を練り、抵抗する。時には不眠不休で、シャツさえ変えずに。それが日本人の美徳だから。

ワーカーホリックとか、休まない国とか、従来の諸外国の日本人観を上書きして、良いものにすり替えてしまう上手な書き方だと思う。

 

◇縦割り行政のすばらしさ

批判も多い縦割り行政だけれど、ゴジラ、という全省庁に影響を与える存在が現れたとき、全省庁がじぶんの省庁に必要なことをきちんとできる、という描き方をすることによって、縦割り行政のよい点が見えてくる。

巨大不明生物災害対策本部、通称巨災対のシーンでそれは顕著にあらわれてる。

いろんな省庁から人を集めてきているなかで、「これはうちの部署に持ち帰ります」とか、自分の所属や部署を強調するセリフがかなり多い。

日本人の所属意識を大事にして、他部署に関しては知らないけれどじぶんの部署に関してはきちんと責任を持つ、そしてじぶんのアイデンティティでありおおもとの所属である日本という国を守る、という構図になっている、と思う。

 

◇法律を守る

すぐに特例を作ってしまったり、法を曲げるのではなく、現行の法をゴジラに対応させていく方針。

法律がばばっと画面を覆いつくすシーンとか。

法律、というものが日本では変えてはいけないとても大事な守るべきもの、という描かれ方だと思う。

 

ほかにも外交政策についてとか、暗号みたいに長い会議名とか。

いろんな「日本ってへんな国」「おかしい国だ」って言われることに対して、たくさん説明をくれる映画だと思う。

きっとたくさんの国で翻訳されるだろう。エヴァンゲリオンひいては庵野監督は海外でも人気だろうし。

きっと日本の印象が津波や震災の映像で止まっている外国人はたくさんいると思う。そういったひとたちに届くこと、までを目標にしているんじゃないかな。

 

映像のイメージってすごく強力で、西部アメリカっていったら荒涼とした砂煙やカウボーイを想像しちゃったり、インドっていったら踊ってばっかりの楽しい国だって思ったり。ねむくてぱっと例が出てこないけれど。実際すぐに行って確認できる場所ばかりではないから、映像がイメージのすべてになってしまう。

ということを逆手に取って、すばらしい作品で、日本のいとしさを伝えているような。

日本ってぜんぜん悪い国じゃないんだよ。って叫んでくれているような映画だ。

 

シン・ゴジラ、とてもよかったですね。わたしには、日本という国まるごとに向けたラブレターみたいに思えてなりませんでした。たぶん、わたしたちの知らないところ日本をとても守る映画だと思います。

だから映画を見たあとありがとうって思ったよ。勝手に。